「毎日jp」より
派遣社員を含めると2000人以上を雇用する鳥取三洋電機(現三洋電機コンシューマエレクトロニクス)は、鳥取県内で圧倒的な存在感を誇るガリバー企業として知られる。ここで、「パワーハラスメント」(地位を利用した嫌がらせ)があり、鳥取地裁は女性従業員(51)の訴えを認め、同社に300万円の損害賠償を命じた。パワハラは病気や自殺にまで追いつめられる労働者もいる深刻な問題だが、行政は効果的な対策を打ち出せずにいる。
◇上司の罵倒、出向命令…
女性は06年5月ごろ、同僚や上司に「伝票を切らず帳簿に残らないように出荷して、代金を何億円も使い込んだ社員がいる」と内部告発した。これが始まりだった。間もなく上司に呼び出され、「偽証罪だ。会社はあんたの処罰を考えている」と、逆に責められたという。
翌月、別件で役員に相談した。「会社は、従業員に県外工場への出向を強要し、退職を迫っている。助けてほしい」
即日、人事担当者に呼び出された。「あなたは一切口を挟まないでくれ。迷惑だ。これ以上続けると、相当な処分するからな」。裁判で女性が証拠として提出した録音テープに上司の罵倒(ばとう)が記録されている。「あなたがやっていることは犯罪なんだぜ。まだ目が覚めないのか」
女性は「自己研鑽(けんさん)」という社内規定を約1週間精読するよう指示される。そして同年7月には「清掃でもして頭を冷やしてください」と言われ、清掃会社への出向を命じられた。出向後も言葉の嫌がらせは続き、両耳の後ろにはストレスが原因でたくさんのかさぶたができた。
07年4月、同社と当時の上司2人を相手取り、804万円の損害賠償を求めて裁判を起こした。勤務先を提訴するには相当の覚悟がいる。その原動力を尋ねると、女性は言った。「泣き寝入りをしてきた同僚をたくさん見てきたから。もう見たくない」
鳥取三洋側は裁判で指摘された不正出荷について「本社の監査で不正行為がなかったと確認した」と主張。県外出向については「雇用確保のための措置」とし、「罵倒」についても「反省を示さなかったから。教育のため」と説明した。
裁判には、異を唱えることができずに県外の派遣会社などに追いやられた元従業員らが傍聴に来た。その中に、同社社員だった夫が自殺した妻(57)の姿もあった。
夫は生産管理などの部署を歩んでいたが、56歳でうつを発症した直後、畑が違う品質保証関連の部署へ異動を命じられた。作業部屋では数列になった社員がパソコンと向き合い、最前列の中央の席を指定された。
家に帰ると、「仕事内容が分からない。上司に相談しても『何とか頑張って』としか言ってくれない」とこぼした。異動の2カ月後、主任に「年明けから仕事を任せる」と通告された。上司に「できない」と告げても「頑張って」としか言われなかったという。
04年12月27日。「行って来ます」と言ったきり帰らなかった。翌朝、近くの漁港で包丁を胸に突き刺しているのが見つかった。
「一年間何をしたんだ 母さんごめんなさい。もうワカラナイ」。死後見つかったノートには、そう書かれていた。
鳥取三洋側は「会社の問題ではない」の一辺倒。「何が問題で、何が問題ではないのでしょうか。死を選ぶまで夫を追いつめたのは職場です」と妻は言う。
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厚生労働省のまとめでは、各都道府県の労働局に寄せられた相談のうち「いじめ、嫌がらせ」が占める割合は年々増加。07年度には、労基法違反を除く相談のうち12・5%を占め、2万8278件に上った。
厚労省は解決策として、弁護士ら第三者の紛争調整委員会が仲裁に入るあっせん制度を設けている。しかし、労働者が申請しても企業側が応じなければ進めることはできず、機能しているとは言い難い。鳥取地方労働局では07年度、いじめ、嫌がらせによるあっせん申請が9件あったものの、うち4件は事業者側が応じず、あっせんは成立しなかった。
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今年3月31日の鳥取地裁判決は、同社が人事担当者の行為を把握できていなかったとしたら「人権侵害に関してあまりにも鈍感」、許容していたとしたら「人権侵害を積極的に推進していたことになる」と批判した。
判決後、女性は「裁判は本当につらかった。裁判を起こせない労働者はたくさんいるはず」と振り返った。そして「戦争がない日本でも、パワハラという人殺しがあるんです。その事実に会社の経営陣も、行政も真剣に向き合ってほしい」と繰り返した。
同社の岡島明広報課長は「判決は一部、会社の主張と異なる点がある。改めて主張したいことがあるため(広島高裁松江支部に)控訴した。具体的な内容はコメントを差し控えたい」と話している。

